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上流も下流も

つい先日のことである。古い友人のY君と恵比寿で飲んでいるときに、彼のケータイが鳴った。かけてきたのは、20年ほど昔、我われとよく飲み歩いていた女性だった。誰もが振りかえる、イイ女だった。酒がめっぽう強く、飲み方も粋だった。

 

その後、彼女は日本を代表する超一流企業のエリートと結婚したことは知っていた。いま、その相手は、その会社の次期社長候補と目されていることも噂で知っていた。品川御殿山の豪邸に住んでいることも。

Y君がいま私と飲んでいると話すと、「あらー、懐かしい。代わって」と言って、私と話すことになった。いやはや。

 

「お久しぶり~、お元気ですか」と言うから、私は「死なない程度に、やっと何とか生きてますよ」と応えた。「私もですよ~」「へー、とてもお幸せだと思ってましたが」と言うと、「そんなことないです。私も、死なない程度に、やっと生きてるんですよ。毎日、家飲みで、がぶがぶ飲んで、へろへろで何とか生きてるんです~」と言う。「へー、上流も、下流と同じように大変なんだ」と私が言うと、「そうよ、大変なんだから」と言って、彼女は電話の向こうで深いため息をついた。

私が知っていた女性で、もっともイイ玉の輿に乗ったとおもっていたひとだったが、現実的には何か、我われ庶民にはわからないツライものがあるのかもしれない。
日本に垂れこめている暗い雲は、山裾の人々だけでなく、じつはこの国に住んでいる人間全体を上から下まですっぽりと覆っているのかもしれない。

 

そこでおもうのはやはり、シアワセッテ、ナンダッケである。自分なりの幸せの見つけ方と生き方である。そして悪天候の山の中での、遭難しない歩き方である。
そうなのだ、あのポン酢醤油の名作CMをつくった演出家のS・K氏も4年前に死んでしまった。ギャンブルですってんてんになって、「ありがとう」と書いた絵コンテを一枚我われに遺して、笑いながら逝ってしまった。シアワセッテ、ナンダッケ、という言葉をおいたまま。

 

Y君と飲んだ帰り道、私は祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きを聴いたような気がした。


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コメント 1

凡人

 上流と下流? 、、、、で、あの大勢いた中流は、どこへ行ってしまったんでしょう。
 押し付けの価値観からチョット離れてみれば、以外に気楽に日々の生活を楽しめると思うのですが。
 シアワセッテ? 行き着く先は良き家族に良き友ではないでしょうか。
by 凡人 (2010-11-20 22:15) 

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